営みの端材 – H商店街の不思議なサインParallel – H
京都府亀岡市で行われた「霧の芸術祭」
京都府亀岡市の【霧の芸術祭】出展作品。新たにモノを創らずとも、街中にはふとした気づきで見えてくるユニークな世界がある。「Parallel - H」は、視点転換によって既に存在する意識の外側の世界を再表出させる試み。今回は「城下町の細い道が連なる地割が生んだ歪み = 不思議な標識」に焦点を当てた展示を行った。
亀岡、H商店街とは
京都府亀岡市にあるH商店街の「H」の意味は商店街の、通りの道の形がHの形をしており、モダンさを意識してH商店街と名付けられたそう。H商店街の加盟店舗は、店舗の前の通りに「H」の看板を設置しており、アーケードのような密集形商業地とは異なる各商店の集積で成り立っている。そんなH商店街は昔、亀山城の城下町として栄えていた場所であった。
街から感じる違和感 - 街の歪みを形に
H商店街を巡っていた時、ある交差点で違和感を覚えた。その違和感を突き止めるため、その場を観察してみると、民家の塀からオレンジのカーブミラーがニョキと生えていることに気付いた。違和感の正体は、公共物が民家から出ていることによるものだった。その気付きを頼りにH商店街を改めて観察してみると、1本の電柱に11枚の標識が寄生している電柱や、商店や民家の人が車から家を守るために、手作りで制作したと思われるオリジナル標識がそこらかしこにある風景が見えてきた。そしてこれら無意識から生まれたサイン達は、それ自体でエネルギーをもつ作品のように私達の目に映った。この現象は、長い歴史を経て街に住む人の営みから生まれた一種の歪みのようなものなのではないだろうかと考え思いを巡らせた。
そして今回の展示ではそれら街の不思議なサインを切り取り、アイコニックに可視化した。
街の違和感(サイン)と街の歴史背景
なぜH商店街には不思議な標識がいくつも生まれたのか。調べていくうちにH商店街は城下町であった歴史背景から、その地形を守るため沿道の道幅が極端に狭い特徴を持つ。そこに地方特有の車社会の発展が訪れ、歩行者の安全担保のため標識が気付かぬうちに増えていったとの考えに行き着いた。そして更に利便性の追求から生まれた、H商店街内を含む国道9号線開通による交通量の増加 (9合線の沿道には大型の商店が立ち並んでおり、そこへ亀岡駅方面から車で向かうにはH商店街がその中間に位置するため、故に交通量が多くなるようだ)の結果として今日の不思議な標識が立ち並ぶ光景を生んだのではないだろうか。
それは城下町という固有の地割が年月を経て車社会という近代化へ向かう最中、市井を生きる人がゆっくりとある種無自覚的に形作った街の歪み(端材?副産物?)と言える。
インフォメーション型の作品展示
展示では、H商店街の中の一角の空き店舗をお借りして街の不思議なサインの作品を展示を行った。Hの地図をイメージしたものを地面に配置し、その上にサインの作品を配置。そして、それぞれのサインには番号が振っており、実際の街にあるサインと連動している。作品、、というよりかは、街の不思議な標識を巡れるように、H商店街に点在する各サインを作品として捉えたインフォメーション型の展示を目指した。
また各作品タイトルは、地域住民からのアンケートによって命名されており、地域参画によって完成した作品となっている。
展示終了後もMAPとして街に新たな視点を残す
展示終了後はMAP不思議な標識を巡れるMAPを作成し、亀岡駅や市役所などに置かせて頂いた。展示期間中だけでなくこの街の不思議なサインを「もう一つの風景」として再解釈し、住まう人・観光で訪れる人らに新たな視点を残すことができた。
Title : 壁からひょっこり
Material : Sponge
作品解説 :
民家の壁からひょっこりこんにちは。
「交差点の安全を守るため、民家から覗きにきました。」
この風景が完成するまでの道程で、
役所の人と住民との人情話を想像してしまう。
Title :奇跡のDIY
Material : Sponge
作品解説 :
コンクリート、物干し竿、そしてピンクの布が計算され尽くされたように組み合わさり、そして鮮やかキッチュな色合のこのDIYは、偶然なのかそれとも狙ったのだろうか。まさにH商店街のアッサンブラージュと言えるだろう。※DIY作成者の気分によって設置されてない場合もあります
Title : Hの守護神
Material : Sponge
作品解説 :
11枚の標識達がキケンを察知し、ここに集まってきたのか。電柱を軸としたその堂々とした出で 立ちは神々しく街を見守り、外敵から街を守り抜くようにシンボリックにそびえ立っている。
Title : 亀岡の潜望鏡
Material : Sponge
作品解説 :
丁寧に四角く整えられた草木からカーブミラーが顔を出している。その様子は水平線から覗く潜水 艦の潜望鏡のよう。一体彼の目からは何が見えているのだろうか。
Title : ヒマワリ
Material : Sponge
作品解説 :
駐車場の雑草の中からミラーが外れ、古くなったオレンジのカーブミラーが立っていた。燦々と光り輝く太陽へ光合成を行うが如く、緑豊かな地面から元気に背を伸ばす姿は、まさにヒマ ワリそのものであった。※季節によって雑草が枯れている場合があります
Title : やっぱり必要だよね
Material : Sponge
作品解説 :
安全のためのフェンス、ぶつからないための黄色と黒の標識、更にその上に左右確認のカーブミラー。ここに至るまでの歴史を感じざるをえない。 ・・・やっぱり必要だよね。
Title : カラーコーン神社
Material : Sponge
作品解説 :
神社の入り口にずらりと並ぶ赤いカラーコーン、鳥居をくぐってもカラーコーン、右も左もカラー コーン。この神社は、カラーコーンたちにとっての聖地なのだろうか。今後もこの場の魅力に引き寄せられて集うコーンがいるかもしれない
Title : 隠れた記号
Material : Sponge
作品解説 :
隙間に隠れるような控えめな出で立ち。ギューギュー詰めになってまでそこに必要だったのか。いや、きっと必要だったのだろう。恥ずかしがり屋のような愛おしさすら感じる。
※タイミングによっては旗が取れている場合があります
Title : ミセス スカーフ
Material : Sponge
作品解説 :
スカーフはエレガントに首に巻くもの。でもたまには配管に巻いてもいいじゃない。そう私は誰が呼んだか「ミセススカーフ」。
Title : キケン三兄弟
Material : Sponge
作品解説 :
長男は言った「キケンだ」 次男「トマレ」 三男「・・・×」
亀岡キケン三兄弟は今日もH商店街を見守っている。
参考
文章 : 中里洋介