Palab parallel laboratory

SOCIALWORK
#12 三重
date:2022.11.01

MOKU ISESHIMA PJ

MOKU ISESHIMA

our story
宝石の島、日本の秘境。
大自然と鮨を味わうオーベルジュ。
海と空、緑に囲まれたナショナルパーク。
ここは、人と自然が調和する奇跡の場所。
日本で唯一、国立公園内で鮨を味わうことができる1日1組限定のオーベルジュです。
わたしたちは、都会では決して得ることのできない体験をあなたにお届けします。

consept : 冷暖自知 reidanzichi
冷暖自知とは、「水の冷暖は自分で手を入れてわかる」
ことを例えに説いた禅語です。
水面の静けさ、空の大きさ、緑の濃淡、味わいなど
MOKU ISESHIMAは、まさしく体験しなければ
わからないことで溢れています。

MOKU ISESHIMA
MOKU ISESHIMA
SUSHI YUTAKA ZEN
YADO TERASU

解体予定の倉庫などで端材収集

三重県志摩市の英虞(あご)湾に浮かぶ離島・間崎島で、2019年にヘリコプターか船でしか行けないカウンター6席のみの鮨屋としてオープンした鮨裕禅が、2022年11月1日に日本初となる国立公園内で鮨を味わうことができるオーベルジュ「MOKU ISESHIMA」をオープンするにあたり「地域らしさ、地域の歴史や魅力を伝えていきたい」とのことで、Palabにお声がけ頂きました。まずはいつものように端材収集を行うにあたり、この島の特徴が「宝石の島」と呼ばれていたことに着眼。ここは、漁業と共に真珠養殖が盛んで、OYAKATAである堀さんが「何かに使えないかと」コツコツ廃棄物や端材を集めていました。『廃棄予定だけど、魅力的で、何かに使えそうだけど、わからない』。ある人は「そんなの取っといてもものが増えるし、早く捨てようよ」というかもしれません。だけど、我々にとっては何かを創作するときにそれらは貴重な資材になります。今回はそんなOYAKATAの勘や感性と、Palabの創作意欲が上手くマッチしました。

端材収集をした倉庫、現在は解体されてヘリポートに

pearl -type ria coast-

オーベルジュのレストラン棟「SUSHI YUTAKA ZEN」の中にある「シェフズ・テーブル」に設置された作品。

スタッフの宿舎建設のため、真珠加工業者の建物解体に伴い廃棄予定だった真珠が採取。真珠を観察すると、一つ一つの大きさや形、色の違いが見えてきました。中には「核」と呼ばれる白い球体(アコヤガイにこれを入れて真珠として皮膜していく)もあった。

これらを個々の形は認識できつつも、全体で1つのまとまりをつくるため同ピッチで配列するパターンを検証。また、それと同時に英虞湾の島々が浮かぶ風景をモチーフに真珠をタイプ別にブロック化することを検証。その結果、俯瞰してみると1つの作品に見えながらも近くによるとブロックごとの真珠の違いに気づき、そのブロックごとをさらに観察するとその中でも違いにあることが気づく、鑑賞者と作品の距離によって印象が変化する作品となった。

シェフが料理をしながら作品を通して英虞湾についての歴史や特徴を語り会話が弾む、そんなシーンを作れればという想いが込められている。

pearl -type calm-

オーベルジュの宿泊棟「YADO TERASU」に設置された作品。

上記作品と同様に廃棄予定の真珠を使用した作品。

本作では、英虞湾がその地形特性から高波がなく、水面が穏やかであることに着眼。そこで色味は真珠を大中小のサイズで選別。同ピッチ配列 かつ 大きさのグラデーションで描くことで、水面のような柔らかで穏やかな表情を表現。こちらも鑑賞者と作品の距離によって印象が変化する作品となった。

pearl -type calm-
作品のディティール
穏やかな英虞湾の水面

ikada plate collage

オーベルジュの宿泊棟「YADO TERASU」に設置された作品。

真珠漁船の廃工場で採取した筏につけるプレート。現代では効率性の観点からステッカーになっているが、当時はアルミプレートが使用されていた。このプレートは視認性を高めるため表面は着色されているが、裏面はシルバーのままであることが特徴で、エンボス加工されたこの裏面に素材としても面白味を感じた。

そこで、裏面をベースに盤面にコラージュ。これらのプレートは一見全て同じに見えるが複数の情報パターンがあり、それらをバランスよく配置。鑑賞する角度によっては表面の色がアルミに反射して色づくことを計算した半立体の作品となっている。

鑑賞する角度によって表面の色がアルミに反射して色づく
採取したプレート

端材関守石

MOKU ISESHIMAのエリア内に点在する作品。

関守石とは、茶庭や露地の飛石や延段に据えられる、小石をシュロ縄で十字に結んだもの。「関守の石」ということで、関守石が置かれた先は、立ち入りをご遠慮くださいの意味を持つ。

機能性やサインの役割を兼ね備えた作品となっており、島で採取したガラス玉や浮き、漂流した石、漁業で使用されていたロープ等で制作。一つとして同じものはない、間崎島でしか表現できない作品となっている。

オブジェや花器

今回のプロジェクトでは、その他にも廃棄物を使用したオブジェや花器を制作。これら全てがそれぞれのストーリーを持っており、OYAKATAたちが語れる要素を持っている。


ビジネスホテルやシティホテルと異なり、地域に根ざした特別な宿泊施設において廃棄物を使用することは重要な意味を帯びてくる。1つは「地域性を表現できること」。これは宿の目指す姿、伝えたい体験価値とリンクするため、文脈のないアートワークを購入し設置するよりも全体としてのまとまりを創ることができると考えている。

もう1つは「宿を運用する人が愛着を持てること」。端材収集から一緒に取り組むため、それぞれに語れる要素があり、ゲストとの会話のきっかけになりやすい。かっこいい、見た目が美しいだけじゃない、ストーリー性はコミュニケーションを豊かにし、その空気感はより土着的な体験へと繋がっていくと感じている。

そして最後に「地域文化を継承すること」。廃棄物が作品として昇華されることで、姿形は変化しながらもその土地の空気感は物語は紡がれていくことができる。こうした一つ一つの紡ぎあいが、地域文化を継承する役割を担うと信じている。

これらの作品は、単に宿を彩る装飾物ではなく、地域を語る上で重要な要素であるのではないだろうか。

情報を補足する作品キャプション

最後に、これらの情報がオペレーターと会話できずともゲストに伝わるようにそれぞれの棟ごとに使用した作品の素材と合わせたキャプションを用意している。これらは目立つ場所に設置しておらず、トイレの中や喫煙所の中にひっそりとある。オーベルジュは美術館や博物館ではない。それぞれの作品にキャプションをつけてしまうと押し付けがましくも感じてしまう。ふとしたしたきっかけに情報を得られる、情報を知ったことでちょっとだけ作品鑑賞が楽しくなる、そんなバランスも大切であると考えている。


文章 : 山野恭稔

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