北海道を「端材」で観光する
「カミシホロホテル」に端材のアートワークを設置
2021年7月。北海道上士幌にあるカミシホロホテルにアートワークを設置した。
今回の取り組みでは、地場産業の現場に足を運び、そこで収集した端材で作品制作を行うことで、通常の観光ガイダンスとは異なるアプローチで上士幌を描き出すことを試みた。
端材のアートワーク - ホテルの周辺を巡るためのきっかけ
上士幌は、人口約5,000 人に対し、100 を超える牧場と約3 万頭の牛を有することが特徴。また、気球も有名で「上士幌」で検索すると、多くの画像を見ることもできる。街の印象としてこれらのイメージが強い一方で、その他の地場産業や観光資産などの魅力も実は存在している。そのため、今回の端材のワートワークではそれらの魅力を可視化し周遊してもらう狙いがあった。
端材は「その場の営みを想像させてくれる」
今回の取り組みではそれぞれの街中から頂いた「不要物」、いわば街の人々が営む上で排出されてしまう端材を収集し、それらの端材の持つ特徴や面白い側面を観察し表現している。そしてその端材の面白さを接点に素材の大元への興味や発見を促すことに繋がるのではないだろうかと考えた。なぜならば今回我々が見つけた、ジャガイモを栽培する際に運ぶ袋や、製品のステッカーの端材など、その場所で起こる物事のプロセスの中から排出されるカケラである故、そのカケラはその場で起きている「営みの匂い」や「営みの面影」のようなものを纏っているからだ。本取り組みは直接的にその場で起きている事柄を伝えるのではなく、街の営みから排出された端材という間接的なカケラを使用することによって、一見見ただけでは何かわからないものが、次第に端材(カケラ)が持つ「営みの匂い」がヒントとなり、その場所で起きている物事へと想像が膨らみ、そして周辺施設への能動的な興味関心へとつながれば、との思いで作成した。
端材を、ここの場所ならではの魅力でフレーミング
作品のフレームにはこの地ならではの要素としてウシ柄を取り入れている。またカミシホロホテルのロゴマークである幾何形態の牛の形を解体、再構築し、アルミフレームでアイキャッチになるよう作成した。また、フレームの作成の意図としてはそれだけでなく、端材という偶発的で素材の自由度が高いものを扱う上でフレーミングはデザインストラクチャーとして効果を発揮してくれる。
端材が、ホテルと周辺環境を繋ぐコミュニケーションツールへ
それぞれの場所から端材をもらい受けた際、本作品の概要を伝えると共に様々な方と幾度もコミュニケーションを図った。とりわけ端材はそこで行われる事柄のプロセス上で発生するものであるため、端材の出自を取材するとその場所で行われる事柄の構造的な部分が見え隠れし、そこの場所で何が行われているかの理解につながった。それは端材をもらう場所と端材のアートワークがあるホテル双方の良好なコミュニケーションをもたらす。そしてホテル内にその場所で生まれた端材を取り込むことで地域の住民との関わり合いも生まれ、新たなコミュニティーとして発展していった。
端材から、創造して想像する
端材には名前もなく、意図もなく偶発的に生まれる副産物であるため、端材の表情から「創造力」を働かせていくと面白いものが出来上がったりする。それらが基本的なPalabのスタンスだが、一方、端材には端材になる前の姿があり、端材から元の姿への「想像」が働くこともまた端材の魅力の一つである。それらを複合的に組み合わせたのが今回の試みだった。
この試みにより、端材のユニークな面白さをきっかけに、市外来訪視点ではここでしか得ることができない上士幌の情報を観光に繋げ、住民視点では地域の魅力の再認識へと寄与できればと願っている。
文章 : 中里洋介