宿場町の歴史と端材BYAKU Narai アートワーク・サイン計画
奈良井宿の端材を集積した「驚異の棚」
長野県塩尻市に位置する宿場町、奈良井宿。そこで開業を迎える小規模複合施設の全体のアートワークディレクション 兼 制作と、サインディレクション 兼 制作を行いました。歴史的な古民家改修の建物内部とあって、その歴史的価値を更に向上させる役割を担うものとして取り組みました。
今回、メインとして制作したのは「TASTING BAR suginomori 」内部の壁面展示です。この「TASTING (テイスティング)」の意味は、小規模複合施設内で醸造される日本酒をテイスティングできるという意味と、街をテイスティングできるというダブルミーニングとなっており、街を知るきっかけとして、この建物から生まれた端材と、宿場町の商店で販売されるアイテムで構成を行いました。また、バーテンダーがお客様と会話するきっかけづくりとして、ひとつひとつのアイテムの持ち主にインタビューを行い、レポート作成を行いました。今後このバーを起点に、まち巡りが豊かになれば良いなと思います。
道具と歴史を3つの視点で味わう
BYAKU Naraiの客室には、それぞれ異なるアートワークを設置しました。そのひとつが「1つと3つの道具」です。これは、コンセプチュアルアートの「1つと3つの椅子」のオマージュになります。今回は3つの視点として、【本物の道具】、【道具のスケッチ】、そして実際に使用していた持ち主の【物語】から構成されています。
道具は用途を失った端材を採取しています。BYAKU Naraiは酒蔵だった『歳吉屋』と、曲物屋だった『上原屋』の2棟から構成されており、道具もそれぞれの建物から出たものになります。物語を書くにあたり実施した持ち主へのインタビューを通して、道具は「物語のテープレコーダー」のような役割を持っていることに気付きました。ひとつの道具について話し始めると自然と当時の話や、先代の話になるのです。これがモノの持つ面白みだと思います。みなさんも、宿泊を通して道具の物語から奈良井の人となりに触れてみては如何でしょうか。
谷間ならではの優しい風が吹く町
奈良井宿は、町の両側が山に囲まれている谷間の地形になります。そのため台風などの自然災害の影響が少なく、これも町が維持保存できている1つの理由だそうです。今回の取組では、この「奈良井の風」を無意識の世界の素材と過程し、端材として扱う試みに挑戦しました。それが「Narai Wind」です。
制作にあたって、宿場町内の建物の軒先に、地域の祭りで使われる大型提灯を設置し、その先に筆をつけて風の力のみで絵を描いています(副区長の小嶋さん、提灯をお貸しくださり、ありがとうございました)。町の人曰く、『祭りの時に提灯が優しく揺れているのが、奈良井の風を感じるときかな』とのことだったので、ユニークな試みになったと思います。また、提灯であることからその軌跡は円弧状となっており、これは提灯の中に灯る火の軌跡とも言えると思います。「Narai Wind」は、一見無作為な抽象画に見えますが、実は町と密接な作品に仕上がっているのです。
再生の裏話に触れるギャラリー
上原屋の客室と併設された「Gallery HoiHoi」の展示計画 及び 常設展示の企画・制作も行いました。テーマは【再生プロセスに触れるギャラリー】
ここでは、今回の施設改修全体の成り立ちについて展示しています。宿泊滞在者は小規模複合施設についてより知識を深めることができ、観光客は次回泊まってみたくなる小噺を知ることができ、地元住民は裏話を知ることで身近な存在として親しんでもらえることを目的とした空間です。開業後は地元の作家が企画展で利用するなど、継続性も視野に入れ計画しました。
【Gallery HoiHoi】
「旧豊飯豊衣民宿」は、奈良井宿を訪れた人に豊かなご飯と安心の寝床を提供する場として宿場町の文化を紡いできました。かつてここには、お母さんの「ほいほい」という軽快な掛け声に引き寄せられ、観光客も街の人も自然と集まり、同じ卓を囲んで世間話をする温かいコミュニティがありました。Gallery hoihoiはそのおもてなしの心を引き継ぎ、お客様を出迎える地域文化発信の場としての役割を担うギャラリーです。
建物と馴染みながらも、主張する「サイン計画」
今回の取組ではアートワークと合わせ、サイン計画も手掛けています。サインは歴史的な建物であることに留意し、空間に馴染ませながらもコントラストを意識することで、視認性を確保しています。素材には経年変化を受け入れる金属を取り入れ、建物と共に歴史の流れに身を任せることをテーマにしています。
レストラン嵓・TASTING BAR sginomori
Gallery HoiHoi・suginomori brewery・その他
Director : Palab Yamano
Designer : Eko Hayashi
宿泊エリア・大浴場・その他
Director・Designer : NOSIGNER
Production director : Palab
Production : タカショーデジテック・家印
文章 : 山野恭稔